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※注意 この小説には以下の要素が含まれています。 現代日本にゆっくりがいます オリジナルキャラが出ます 制裁要素はありません 東方キャラは出ません 「あるカップルの日常 ~我が家にてんこがやってきた~」 知人からゆっくりてんこを譲ってもらった。 飼っていたてんこが十数匹も子供を産み、処分に困っていたそうだ。 ダンボール箱いっぱいに蠢く小てんこ、その数ちょうど十匹。 しばらく楽しめそうだ。 虐待の構想を練りながら、電車に揺られ帰路についた。 ようやくアパートに着いた。 鍵を取り出すため一旦ダンボールを床に叩きつけた。 衝撃で上蓋がめくれ中の様子が見えた。 ゆっくりの鳴き声は五月蝿いので口をガムテープで閉じてある。 普通のゆっくりなら嫌がるところだが、てんこはマゾなので嬉しそうに笑っている。 何体かは顔が紅潮している。 電車や歩く時の振動で発情したのだろう。 玄関を開けると、留守番をしていた彼女と目が合った。 「おかえりー」 「おう」 彼女は揚げ饅頭を食いながら、ゆっくりれいむの頬をつねって遊んでいた。 れいむは半狂乱になりながら「やめてね!!やべでえええええ」と叫んでいる。 もちろん彼女が食っている揚げ饅頭は子ゆっくりである。 俺達の趣味はゆっくりいじり。 なかなか人に言える趣味ではないから俺も最初は黙っていたが 色々あって今では二人仲良くゆっくりをいじめて楽しんでいる。 「ちっちゃいねー」 「好きなの選んでいいぞ」 「じゃあ半分もらうね」 先程までいじっていたれいむの上に座った彼女は 無造作に五匹の小てんこを掴み太腿の上に叩き付けた。 その内の一匹をつまみ、ガムテープを剥がすと 背面から噛り付く。 「ゆきゃあああああああああああああ!!!いちゃい!!いちゃいよおおおおお!!!」 「あ、ちっちゃいから皮もそんなに硬くないよ」 残りの小てんこは驚愕の表情で固まった。 てんこはMなので、つねったり蹴ったりする程度なら快感を得る。 しかし、いくらMといっても命を脅かす状況では生存本能が優先されるのは当然だ。 「あー、これ桃まんの中に入ってる・・ほら、ゴマ入りの中華な感じの餡子だよ」 「う、くどそうだな・・」 「通常種の餡子と違うから口直しにはいいかもねー」 「ゆきっゆきっぃぃっぃいいいいいいぶっ」 彼女は餡子を食べ尽くすと、デスマスクと化した皮を残りの四匹に投げた。 小てんこ達は皮を避け、青ざめた顔で震えていた。 声が聞こえないのはつまらないので全員のガムテープを剥がすことにする。 「「「ゆっくりやめてね!!!ゆっくりやさしくいじめてね!!!」」」 とりあえず一匹踏み潰しといた。 叫んだら同じ目に合わせると教えたら大人しくなった。 小てんこ達を抱えてキッチンへ向かい、フォークとあるものを探すため冷蔵庫を開けた。 まな板の上に乗せられたてんこ達は震えている。 準備が出来たので、適当に一匹つまみあげ皿の上に乗せた。 「よし、今からおまえをいじめてあげよう」 「ゆゆっ!ほんとう!!?」 「本当さ、ゆっくりじっくりいじめてあげるね!」 てんこの顔がたちまちヘブン状態になる。 まな板の上にいるてんこ達にも会話が聞こえていたようで、 先程の表情とは一変し幸せそうな笑顔を浮かべていた。 皿の上でそわそわしているてんこから見えないように 俺はゆっくり作業を進めた。 「ゆううううっ はやくいじめてねええええっ!!」 「あれ?早い方が良いの?ゆっくりいじめようと思ってたのになあ」 「ゆほおおおおおっ ゆっくりっ!!ゆっくりてんこをいじめてね!!」 「はっはっはっ てんこはせっかちさんだね。もうちょっと待ってなさい」 棒読みで語りかけながら、俺はフォークに満遍なくわさびを塗りたくった。 我慢は体に毒。 フォークを掴み、素早くてんこの頭上に構え 「そぉい!!」 ブッ 「ゆきい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」 一気に突き刺した。 幸せな笑顔から一転、てんこは白目を剥き絶叫をあげる。 フォークを突き刺した所から餡子が飛び出した。 やはり小ゆっくりは生まれて間もないだけあって、皮が柔らかい。 「おー苦しんでるねー」 「ほら、こいつら饅頭だからな。体が甘いもの以外受け付けないだろ? だからわさびが直接餡子に触れるようにしてやったんだ」 「いいねー面白そう。じゃあ私はマスタードでやってみようかな」 てんこの体を襲ったのは快楽ではなく想像を絶する痛みだった。 フォークだけだったら、まだ快感の許容範囲内の痛みだったかもしれない。 しかし、わさびまみれのフォークはてんこの体に苦痛しか与えなかった。 夕方。 スーパーのチラシを見ながら、二人は楽しそうにはしゃいでいる。 「あ、見てみてー!今日スーパーの特売でわさびが安いよ!」 「おー、しょうがやにんにくもあるな。」 彼らの傍にあるダンボールの中には、わさびとマスタードまみれになったゆっくりてんこが詰め込まれていた。 おわり +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 最後まで読んで下さってありがとうございました。 挿絵→gy_uljp00037.png.html 第二YR 以前書いた作品 ゆっくり加工場系19 水羊羹饅頭 このSSに感想を付ける
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その他いじめ短編集 1 2 3 4 5 6 7 鶴屋いじめ 真夏の海の生徒会
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--------- ★<滋賀県> ●【問合わせ先】:滋賀県土木交通部住宅課公営住宅担当 〒520-8577大津市京町四丁目1‐1 電話:077-528-4234(直通) ●【制度の概要】:罹災証明書。避難区域内居住。被災証明書。が必要。 ・仕事 当面(1年以内)の就労の場の確保を考えている。求職者総合支援センター相談員による、就労や生活の相談を実施。 ・学校 高等学校 ・・・現1年生と2年生については、転入学手続きを簡略 化し、面接で決定します。現中3生については、新入学に関して特 例的かつ柔軟に対応。 小・中学校・・・居住予定地の市町教育委員会と連携して進める。 ・生活福祉資金貸付において、被災された皆様に対する緊急小口資金の特例貸付が実施。貸付金額は、 原則10万円以内。特に必要と認められる場合20万円以内まで貸付。 PDF http //www.pref.shiga.jp/bousai/ukeiregaiyo.pdf ●【募集開始日・期間】:即日入居可 ●【お申込み方法】:申請書などの証明書類と共に来訪。代理人でも短期間 ●【対象地域・対象者】:証明書が取れる方。 ●【費用負担】:六ヶ月間無料。最大1年。光熱費は自己負担。 ●【受入先】:各県栄住居。 ●【受入件数】:21個/5,16。各市、町でも別の物件あり。http //www.pref.shiga.jp/hodo/e-shinbun/hb00/413teikyoujyutaku.pdf ●【電話確認】: --------- 携帯の方はここまでです。 上に戻る
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「ふたば系ゆっくりいじめ 1220 虐待ハウス/コメントログ」 なんて頑丈なれいむなんだ… -- 2011-01-09 04 01 30 こんなに三角錐が凄いと思ったことはない…! -- 2011-01-11 21 21 44 わかった。ゆっくりは人間のストレスのはけ口になるために人間にストレスを与えるのか!! -- 2011-10-20 01 49 41 もう三角錐が虐待道具にしか見えない -- 2011-11-14 17 44 26 体とほぼ同じぐらいに広がったあにゃる・・・ -- 2014-09-18 17 26 43 3))天才 -- 2014-09-18 17 28 04 饅頭って凄いんだな -- 2017-01-14 01 37 13 虐待を受けたれいむが回復して、何もしてないまりさが死んだのかw なんと不思議饅頭www この店、よく潰れないな。(経済的な意味で) -- 2018-03-06 05 49 30
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「ふたば系ゆっくりいじめ 386 最終地獄/コメントログ」 でめたしでめたし -- 2010-05-25 20 32 32 期待しちゃったよ!! そして、こういう作品は好きだ! -- 2010-06-10 01 03 19 やったー!お兄さん、カッコイー!! -- 2010-06-30 06 29 48 やだ…カッコイイ/// -- 2010-11-03 22 50 28 かっこいいんだか馬鹿なんだか…… -- 2011-08-16 12 22 29 地震と放射能か・・・こんな話を気にせずかけた時代が懐かしい -- 2011-09-26 22 59 58 ↓そうだよな、今じゃ不謹慎で叩かれるし・・・傷跡は未だに残ったまま・・・ -- 2013-01-23 04 20 22 泣いた -- 2013-03-09 02 46 06 俺福島県民なんだけどこれからは原発には無数のうにゅほがいるんだと思うわ。うにゅほの出した放射性物質だと思っとく…ちょっと萌え -- 2013-05-02 18 42 01 この部屋にでいぶやゲスまりさいれてみたらどうなるかなwww -- 2014-05-28 20 50 51 完全にハルクになっちゃったじゃないですかー!! すげぇ・・・ -- 2014-08-01 10 18 34
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滋賀県
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滋賀県
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空が赤く染まるころ、ぴょこぴょこと竹藪の中をはねる一匹のゆっくりがいた。 黒髪にちょこんと、丸っこくて白いふわふわしているうさ耳を生やしたゆっくり、『ゆっくりてい』である。 「うっさうさ~♪」 ていは狡賢く、いたずら好きなゆっくりだ。 嘘や演技は当然のこと、酷いときには落とし穴と組み合わせて他のゆっくりを落とすこともある。 そして騙されたゆっくりをみて、その滑稽さを笑うのだ。 「おかーさん、ただいまうさ!」 「おちびちゃん! おそとはあぶないうさ! もっとゆっくりせずにかえってくるうさ!!!」 「ゆっくりごめんなさいうさ……」 「わかればいいうさ。はやくいっしょにごはんをたべるうさ」 このていは母親と二匹で住んでいる、完全な母子家庭。 父親は幼い頃に亡くしていたし、他の姉妹はすでに巣立っていた。 二人きりの食卓に、幸せそうな声が響く。 「「むーしゃむーしゃ、しあわせ~うさっ♪」」 ◇ ◇ ◇ 今回は、てい虐めである。だが、ていを捕獲してはいけない。 なぜなら今回は、小さな群れを丸々一つ利用したものだからだ。 「というわけで俺はいま、キャンプをしています!」 「うぅ~? だれにむかっていってるんだどぉ?」 「おいおいれみりゃ、そこは空気を読むところだろ? なあいくさん!」 「およよ、いくはくうきのよめるおんなです」 ちなみに俺の周りには、なんやかんやで五匹ほどゆっくりがついてきている。 みんな割と楽しそうにキャンプ―――もとい、野生生活をしてくれているようでなによりだ。 「まあ、せいぜい楽しむがいいさ。……鬼井山がテントを貸してくれるなんて、これで最後かもしれないんだからな」 ちなみにテントは二人用であるため、ゆっくりは何匹か野宿になる。 数日続くのだが、たぶんだいじょうぶだろ。どれも元々野生だし。 「うー♪ きょうはおにーさんといっしょにねるどぉー☆」 「いや、お前夜型だから見張り役だろ。野犬でも来たら教えてくれ」 「いやだどぉー! ひとりはゆっくりできないんだどぉー!!!」 「わがまま言ってはいけません。めっ!」 「うぁっ!! ……うぅー、たまにはゆっくりしたいどぉ……」 そう呟きつつ、いかにも泣きそうな顔でとぼとぼさっていくれみりゃ。今日は割と素直である。 ……仕方がないから頭をなでてやった。この前、ちょっと虐めすぎたしな。 「まあ、俺はいくさんと一緒に寝るがな」 「うぅー!?」 冗談だ。……冗談だよ? ◇ ◇ ◇ 「うっさっさ♪ きょうもいたずらするうさ♪」 朝になり、今日もていは元気よく遊びに出かける。いつも通りの毎日。 ていはどんないたずらをするかは考えていなかったが、とりあえずいたずらすることだけは決めていた。 またありすにただの小石を "ほーせき" として渡してもよいし、まりさに適当な方向を教えてそこに果物があると言ってもいい。 ぱちゅりーはていの嘘に最近引っ掛からなくなってきたからやめよう。 そんなことを思いながら、群れの近くをぐるぐると回っていた。 ちなみに、ていは子供を作るといたずらをしなくなる。というより、いたずらをしていては必要なごはんが集めれないのだ。 いたずらはていにとってゆっくりできるもの、当然だがいたずらをしなければゆっくりできなくなる。 そのためていは親になる個体が少なく、それがていを希少種たらしめる要因の一つにもなっていた。 あるいみ、ずっと子供でいたがる種族といえるのかもしれない。 「……うさ?」 ふと、ていは緑色の茂みの奥から目立つピンク色の何かを見つける。 この距離だと、なんだかよくわからない。 好奇心旺盛なていは、ゆっくりとそちらに近づいていく。 「そろーりうさ……そろーりうさ……」 ピンク色の何かは、突然動いたり止まったりを繰り返していた。 けれどそんなに早く動いてなかったから、ゆっくり落ち着いて行けば大丈夫そうである。 もっと、もっと近づいてゆく。 「そろーりうさ……そろーりうさ……」 「そろーりだどぉー……そろーりだどぉー……」 何か声が聞こえるが、何なのだろう? そこまで来たとき、ていは自分が追っていたものの正体がわかった。 ピンク色の靴だ。 なぜか群れの方へと向かっている。 靴というものは知っている。にんげんさんが履くものだ。 ということは、にんげんさんなのだろうか? その靴がはっきり見える位置に来たていは、ゆっくりと視線を上げた。 「……うー?」 ちょうど向こうも気づいたのか、二匹の視線が交差する。 「―――れ、れみりゃうさぁぁぁ!!!」 「うわぁぁぁ!? みつかったんだどぉぉぉ!?!」 ていは叫びながられみりゃを追い越し、一目散に群れへと駆けもどって行った。 後ろで何か叫び声が聞こえるような気もするが、気にしてはいられない。 れみりゃぐらいなら、今群れにいる大人たちで追い払えるはずだ。 「うさぁぁぁ!! たいへん! たいへんうさっ!!!」 「むきゅっ!? てい、どうしたの? ゆっくりしてないわよ?」 群れに戻ったていが最初に出会ったのは、運がいいことに長であるぱちゅりーだった。 赤ゆっくりの世話をしていた長はていの必死な形相を見てちょっと引いたが、とりあえず事情を聞いてみる。 「れみりゃ、れみりゃうさ! れみりゃがやってきたうさ!!」 「むきゅっ!? それはたいへんね! おちびちゃんたち、ゆっくりおうちにはいりなさい!」 「ゆっくちりかいちたよ!!!」 「おねーちゃん、れみりゃってきょわいの?」 「そううさ! と~ってもこわいゆっくりうさ!!」 「れいみゅこわいのいやぁ……」 次々と赤ゆっくりが長の家へと避難していく。 そこにゆっくりとした様子は全くない。まさしく非常事態だ。 そしてその間に、ていの叫び声を聞いた大人たちが集まってきた。 「ぱちゅりー、いったいどうしたの?」 「むきゅ。ていがさっき、れみりゃがきたっておしえてくれたの」 「いなかもののれみりゃはゆっくりできないわ!」 「ゆっ! みんなでおいはらいにいくよ!」 「そのとおりね! てい、あんないしてちょうだい!」 「わかったうさっ! こっちうさ!」 群れのゆっくりを誘導するため、ていは先頭で急ぎ跳ねていく。 しかし、ていがれみりゃを見かけた場所にはもう誰もいなかった。 「……たぶん、もっとおくうさ」 仕方なくさらに進んでいくのだが、このとき大人たちはていが本当のことを言っているのか、ゆっくりと疑問に思い始める。 だいぶ進んだのに、れみりゃどころかほかのゆっくりの姿も見えないのだ。ていを追いかけていたらすぐにすれ違うはずなのに、それもない。 それに、ていは嘘つきだ。前にも『たいへんうさ! れみりゃがきたうさ!』と言われて騙されたこともある。 もちろん、ていも何となくおかしいとは思っていた。 確かに出会ったはずなのに自信がどんどんなくなっていき、内心では不安と混乱が渦巻いている。 「むきゅー……。てい、れみりゃはどこなの?」 「こっちうさ! たぶん、もっとむこううさ!」 ていは先ほどからそう言っているが、何の証拠もないのもまずかった。 命からがら逃げてきたのなら傷の一つくらいあってもいいのに、それもない。 そもそも一人だと、大人だってれみりゃから逃げるのは難しいのだ。 だから大人たちがその結論に達したのは、たとえゆっくりの餡子脳と言えでも当然の結果だろう。 「……ていはうそつきなんだねー! わかるよー!」 最初に切り出したのは、ちぇんだった。 次の瞬間、周りの大人たちも一気にていを責め立てる。 「ゆゆっ!? うそだったんだね! うそはゆっくりできないよ!!!」 「う、うさ? ちがううさ! ほんとうさ!」 「じゃあ "しょうこ" をみせるんだぜ! ないならうそなんだぜ!」 「しんじてほしいうさ! れみりゃはいたうさ!」 「それいじょういうと、さすがにとかいはのありすもおこるわよ?」 「ほんと……うさ……」 大人たちに一斉に攻められるのは、子供のていにはとても恐ろしい。 その大きな体と大きな声は、小さなていには持ちえないもの。 ていは返す言葉もなく、完全に委縮してしまう。 だがそこに、ぱちゅりーが助け船を出してくれた。 「みんなおちつくのよ! まだていはこどもなんだから、ゆるしてあげましょう?」 ―――もちろん、ていのことは全く信じていなかったが。 「…………」 (……ほんとうさ。しんじてほしいうさ) ていのその思いは、言わなければ伝わらない。 それなのに、言ったところで信じてくれない。 無情にも、大人たちは『ていが嘘をついた』ということを事実として決定した。 「…………」 「ゆゆっ! そういえば、かりのとちゅうだったんだぜ!」 「むきゅ。おちびちゃんたちがまっているわ!」 「ゆっ! そういえばそろそろ "てぃーたいむ" ね!」 「いそいでかえるんだねー! わかるよー!」 長であるぱちゅりーがゆるすというのなら、何の問題もないというのだろう。 大人たちに油を売ってる暇などない。 それぞれ自分の用事を思い出して去っていく。 「ぷんぷん! ぜんぜんゆっくりできなかったよ!」 「もううそはつかないでね! めいわくだよ!」 「れみりゃがいなかっただけよかったじゃない。むきゅん」 ていと『ていが嘘をついた』という事実だけが、その場にぽつんと残されてしまった。 ◇ ◇ ◇ 『――だから、ていはうそをいってないうさ! しんじてほしいうさ!』 『……おちびちゃんはゆっくりしているうさ。だからしんじるうさ』 『ありがとううさ……しんじてくれたのは、おかーさんだけうさ……』 「泣かせるね……いい親子愛じゃないか」 電池式のランタンを点けたテントの中。 俺はいま、盗聴器を通してあのていの会話を聞いていた。 というか見つからない位置にいる以上、こうして盗聴するぐらいしか向こうの様子を知る方法がないのだ。 やはりと思うかもしれないが、あのれみりゃは我が家のれみりゃである。 れいりゃ曰く『ぎゃお~! たーべちゃうぞー♪』と言いながら出る予定らしかったのだが、群れの近くに行く途中で見つかったらしい。 まあ結果オーライだ。うん、結果オーライ。 そのまま誰にも見られないようにこっちに戻って来るよう指示して、人工的なオオカミ少年のできあがりというわけだ。 「やっぱ、本当のことを言っても信じてもらえないのは辛いよな―――けどさ」 人間の感覚情報は8割以上が視覚だという。 つまり、この虐待は俺にとって8割以上がないようなもの。 ぶっちゃけ、俺、あんま楽しくない。 「早くネタばらしに入らないかなー」 まるでぐずる子供のように地面をゴロゴロと転がる俺。 でもビニール越しに石が当たるからすぐやめた。こんど家でやろう、うん。 「それならおにーさんも、ゆっくり "きゃんぷ" をたのしめばいいんだどぉ~♪」 「うぉっ! いつのまに中に入ってきた!? ……しかしまあ、それも一理あるか」 何もすることがないならキャンプを楽しめばいい。 たしかに筋は通ってる。れみりゃのくせになまいきな。 「―――お前に正しいことを言われるのは何か気に食わん。なあれみりゃ、なでなでと明日のぷっでぃ~ん抜き、どっちがいい?」 「うー♪ そんなのなでなでにきまってるんだどぉー♪」 「よし、言ったな? 後悔すんなよ?」 俺はさっそくれみりゃの頭をなでてやることに。 なでなで。 「うぅー☆」 なでなで。 「うぁー♪」 なでなで。 「うー……」 なでなで。 「うぅー! なでなではもういいどぉ!」 なでなで。 「ううぅー!? あついどぉ! やめてほしいどぉ!!」 なでなで。 「うわぁぁぁ!?! あたまがぉぉぉ!!!」 なでなで。 ◇ ◇ ◇ れみりゃにであってから一週間後、ていは群れの嫌われ者になっていた。 れいむも、まりさも、ありすも、ちぇんも、ぱちゅりーも。 大人から子供まで、ていは嫌われてしまっていた。 友達だったゆっくりも、いたずらにつきあうどころか話すらしてくれない。 「……なんで、ていをしんじてくれないうさ」 本当に、れみりゃにであった。 本当に、木の上から降りてきたふらんに襲われた。 本当に、ゆゆこが吸いこもうとしてきた。 本当に、れてぃが食べようとしてきた。 どれも命からがら群れまで逃げてきたのに。 群れに帰ってくるまで、すぐそこにいたはずなのに。 群れの仲間から返される言葉は、つらいものだった。 『ふらんはれみりゃよりゆっくりしてないのよ! にげられないわ!!』 『ゆゆこはすぐにすいこむんだよー! わかってねー!!!』 『ゆ? こんなにあついのに、れてぃがいるわけないでしょ? ばかなの? しぬの?』 言われてみればその通りだけれど、嘘ではないのだからていにはどうしようもない。 そのうち、ていは襲われても何も言わなくなっていた。そうすれば、嘘つきだと言われないから。 それどころか家に閉じこもってしまい、外で遊ぶこともなかった。 ていにとって、唯一の味方は "おかーさん" だけである。 ていのせいで肩身が狭い思いをしているにもかかわらず、ていの言うことを全て信じてくれていた。 まさしく、母親の鏡のようなゆっくりだ。 時々おかーさんは、ていをじっと見つめるときがある。 その視線はやさしいような、かなしいような……ていには良くわからないものだった。 人はその視線を哀れみというのだが、ゆっくりであるていに知る由はない。 「ゆっくりかえったうさ! さっそくごはんにするうさ!」 「わかったうさ。……おかーさん、いつもありがとううさ」 それでも、ていは幸せだった。 外ではあそべなくなったけれども、毎日おかーさんと一緒に食事ができる。 それだけで十分幸せだった。 「ゆっくりくろまく~♪」 幸せ、だったのに。 「……うさ?」 ていは、目の前でおかーさんがれてぃの舌にからめとられる様子を、呆然と見ていただけだった。 そしてていと同じ白いうさ耳が外に消えたかと思うと、長い静寂。 それが意味するところは一つしかない。 たべられた。 おかーさんが、たべられた。 ていの餡子はその情報を処理しきれない。処理をしたがらない。 こんなつらい現実を、認めたくなかった。 「…………」 どのくらい時がたったのだろう。それは須臾か永遠か。 再びおうちの中に、れてぃの長い舌が入りこんできた。 硬直してまったく動けなかったていは、簡単にれてぃの舌がからめ取る。 (……もういいうさ) ここ最近いろいろな出来事が多すぎて、ていの心は摩耗していたのだろう。 それは潔いくらいのあきらめ。 ていはむしろ、母親と同じところに行けるなら本望とも思えた。 口に入るその一瞬。 群れがあった場所にていが見たのは、捕食種のカーニバル。 れみりゃが長のパチュリーを襲い、ふらんが友達だったありすとまりさを串刺しにしている。 そこらじゅうでおうちの入り口が壊されているのは、れてぃがみんな食べたからなのか。 どこかでゆゆこが吸い込む音も聞こえるため、生き残るゆっくりは一匹もいないだろう。 皮肉にもその光景は、ていが嘘をついていないという完璧な証明であった。 ◇ ◇ ◇ 俺は夕日に照らされながら、キャンプの後片付けを終えていた。 明日からまた仕事だ。そう考えるとちょっとうつである。 でも、昔の偉大なる誰かさんは『忙しいから休日はありがたい』と言っていた。 そうだ、仕事があるだけましじゃないか。ワーカーホリック日本人だからこそ、休日はありがたいのだ。 ……休暇取ってる自分が言うことじゃないけど。 「お、戻ってきたか」 いくさんを除いた四匹が戻ってきた。 心なしかゆゆことれてぃの顔が満足げだ。いつも満足に食べさせてやれないでごめんな。 「それで、あいつはどうした?」 「くろまく~!」 れてぃが口から一匹のゆっくりを吐きだした。 例のていである。 ちょっと融けているのはご愛敬だろう。 「う、うさ……」 「よっ! 大丈夫か? 俺はお前に会いたくて待ち遠しかったから、こうして会えてうれしいよ」 「……うさっ!? な、なんでにんげんさんがいるうさ!」 「れてぃに連れてこさせたんだ。後ろ見てみろ」 その時後ろを向いたていの顔は、――割と良い顔だった。 今まで自分が見かけた捕食種が全てここにいるのだ。 群れのみんなに言っていたゆっくりが、全てここにいるのだ。 何を思っているかは知らないけれども、死ぬかも知れない恐怖に顔をゆがませているよりはよっぽど良い表情である。 「さて。いくさん、ちょっとこいつ持っててくれ」 「およよ。べとべとしますわ」 ていは何の抵抗も見せないまま、いくさんにあっさりと抱えられた。 ……しかし何だろう。良い表情が見えた後なのに、なぜかちょっと嫌な予感がするんだが。 「んーじゃあ、まずためしに。ていが見た捕食種は、全部このおにーさんが操っていました。どう思いますか?」 「……そううさか」 「おや? 俺のせいで群れのみんなから嫌われたり、おかーさんが食べられたりしたが、恨んでないのか?」 「……おかーさんをたべたのはゆるせないうさ。でも、もうどうでもいいうさ。ころすなりうさぎなべにするなり、すきにするがいいうさ」 「あっはっは、そうか。……こいつ、達観しやがったな」 まあいいか。もう一つの方に期待させてもらおう。 「じゃあ、おかーさんにもう一度会えるとしたら?」 「―――うさ?」 ◇ ◇ ◇ ていは、目の前のにんげんさんが何を言い出したのかわからなかった。 おかーさんに会えるとしたら会いたい。でも、どうしてここでそれを訊くのか。 あの時れてぃに食べられたのだ。生きているわけが……? 「れてぃ、もう一匹も頼む」 「ゆっくりくろまく~!」 レティの口から、黒髪に丸っこいうさ耳を生やしたゆっくりが現れる。 毎日見てたその姿は、間違えようがない。おかーさんだ。 そうだ、ゆっくり思い出せば、ていもこうやってここに出てきたはず。 ということは、そこにいるのは死体ではなく――― 「……おかー、さん?」 「はぁ? なにいってるうさ?」 ……え? 「ていにこどもはいないうさ。まったくしつれいうさね!」 ていは、おかーさんのこどもだよ? なんで、おかーさんはそんなこというの? 「いや、実はこいつ、俺が飼ってるていなんだ。お前のおかーさんじゃないの。わかるか?」 違う。そんなことはない。 だって、ていはおかーさんのことを見間違えるわけがない。 あそこにいるのは、おかーさんだ。 「まったく、あたまがわるいうさね。ていはおかーさんじゃないうさ。 バカなの? しぬの?」 「俺が入れ替えておいたんだ。ゆっくりりかいしてね!!!」 そんなばかな。 ていは、おかーさんをよく知っている。 優しいおかーさんを知っている。 ちょっとぐらい似ているからって、あんな性格じゃない。 「いや、そこはていの特性……演技能力だよ。ほら、よく嘘ついたり、演技でだましたりするだろ? あれといっしょさ」 「―――おちびちゃん、だいじょうぶうさ? いたくないうさ? とけているところをぺーろぺーろしてあげるうさ」 そこにいたのは、紛れもない "おかーさん" だった。 ていのことを子供じゃないといったゆっくりが、 "おかーさん" になった。 いつも優しくて、甘やかしてくれて、心配性な。 でも、あのゆっくりは "おかーさん" じゃなくて……あれ? 「こいつの演技はすごかっただろう? いたずらということで協力的だったのが良かったよ」 「うっさっさ。ずっとみすぼらしいゆっくりのふりはつかれたうさ」 おかーさんはみすぼらしくなんかない。 おかーさんはお前よりずっと素敵だった。 おかーさんは、確かにいたのだ。 「ああ、ちなみにお前の "おかーさん" は死んでるから」 「う~♪ でりしゃすだったどぉ~☆」 「……うそうさ」 「お?」 「うそうさっっっ!!!!!」 おかーさんは、生きている。 きっと生きてる。 だから、言わなければいけない。 それは嘘だ。 「ああそうだ。嘘だよ。―――そう言えば満足か?」 「いまならていのことを "おかーさん" とよんでもいいうさよ? げらげらげら!!!」 「うっさぁぁぁ!!! ちがううさ! おまえなんておかーさんじゃないうさ!!! うそうさ! ぜんぶうそうさ!!!」 「おいおい、酷いな。仮にもここ数日の "おかーさん" だろう?」 「こんなゲスはおかーさんじゃないうさ!!! ていせいするうさ!! うそうさっ! うそうさぁぁぁ!!!」 ていは一生賢明体を動かした。 ここを抜け出して、あの目の前にいるにんげんとゲスを殺さなければ。 そうしなければ、気が収まりそうになかった。 そのとき、ゲスがじっとこちらを見ていることに気づく。 そう、あれはおうちの中でも見た顔だ。 やさしいような、かなしいような…… ―――何もできないだろうと、思ってる目だ。 「うっざぁぁぁぁぁ!!!」 一生懸命体をひねる。 ふざけるな。何が何もできないだ。 殺してやる。 ゲスであるお前を殺してやる。 「ああ、ちなみにこれ、お前のおかーさんの餡子な? 余ってたからやるよ」 にんげんが黒い何かを出してくるが、そんなのはどうでもいい。 おかーさんは生きてる。 ぜったいに生きてるんだ…… 「うぞうざっ! おがーざんはぜったいにいぎているうざっ!!!」 「そんなに泣いていても説得力ないな。……もう死んでるって、わかってるんだろ?」 「ていならゆっくりいきているうさ! うっさっさ!」 「うっ、うぞうざ……ぜっだいに……」 「もういいぞ、自分に嘘はつかなくていい。――あとはゆっくりしろ」 「フィーバー!」 その時。 バチィッ! という音とともに、ていの視界は真っ暗に包まれた。 ◇ ◇ ◇ 「どうだ? いくさん」 「いくはくうきのよめる、おんなです」 「いや、それじゃ解らないんだが……」 ピクピクと動いているため、まあ生きているのだろう。よしよし。 ゆっくりは感電しても死ににくい。なぜなら餡子を吐く前に意識を失うため、内部の餡子が焦げなければ死なないのだ。 「いやしかし、今回の主演女優賞は間違いなくお前だよ、てい。あの演技は素晴らしかった」 「……そううさか」 ていの声は、子供のていを騙していた時のような元気が全くない。 さっきまでの生き生きとした表情がうそのようだ。 「おいおい、俺は褒めてるんだぞ? ―――本当の子供を、見事に騙せたんだからな」 俺がそう言うと、何かのタガが外れたのか、ていはぽろぽろと泣き出した。 さすがに母であるというべきか、子供と違ってうるさくない。 「うっ、うざっ……うざぁ……」 「さて、約束は守るぞ。約束通りお前とこの子供は生かしておこう。よかったな」 「うっうっうっ……うざっ……」 そう、俺はこいつに協力してもらった。 もしあのていに計画をばらすことがあれば、群れごと殺してやると脅しておいて。 最後に自分の子供を騙せなければ、同じように殺すとも。 これだけ捕食主がいたのが幸いしたらしい。割と素直に聞いてくれた。 この大きなていだって、母親になる前は一人前の嘘つきだったはずだ。 子供を助けるためならば、あのくらいの演技はできるということか。 母親の執念、恐れ入る。 「ああそれと、ここにつけておいた盗聴器は回収させてもらうな。……お前は見えないだろうけれど」 「……おちびぢゃんごめんうざ……おがーざんはおぢびぢゃんのこど、だいずきうざ……」 「まあ、まだ生きてるんだ。チャンスは残ってるって。 ――それじゃあ、いくさん!」 「フィーバー!」 バチィッ! 「うざっ……」 そして母親のていも、苦悶の表情で気絶した。 気絶しても苦しんでいるとは。 身を削って産んだ我が子を否定したのは、それほど辛かったのだろう。 ……いや、逆に我が子に否定されたことの方が辛かったのかもしれない。 「さて、全部終わったし帰るか。……どうしたれみりゃ?」 「なんでおっきいほうをもってるんだどぉー?」 「この母親か? とりあえず適当なところで置いていくつもりだ。 あの子供は気絶したまま置いとくが……まあ、運が良ければ死なないさ」 ◇ ◇ ◇ 家に帰ってから、今回録音した音声を編集している時にふと思った。 あのていの親子が生き延び、再び出会ったらどうなるのだろう。 母親は喜んで子供に声をかけるだろう。それは間違いない。 だが、子供の方はどうなのか…… 相手が "おかーさん" だと認めるのだろうか? 怒りに身を任せて殺そうとするのだろうか? 俺は本当の母親は死んでいると思いこませたかったが、うまくいったのだろうか。 それだけはちょっと気がかりだ。 まあ、何にしても一つだけ解ることがある。 自分がおかーさんと言ったって、一度騙された相手を完全に信用するわけがない。 ……いくら言ったところで、次に出会った時には信じてくれないだろうさ。 あとがき 一日に一作ペースは無理があった。 とりあえず、まずは『B級ホラーとひと夏の恋』以上の作品が作れるように修業します。 SSの基礎から勉強し直すよ…… 前に書いたもの ゆっくりいじめ系2744 B級ホラーとひと夏の恋 ゆっくりいじめ系2754 ゆっくりできないおみずさん ゆっくりいじめ系2756 ゆっくり障害物競走? ゆっくりいじめ系2762 れみりゃはメイド長 ゆっくりいじめ小ネタ517 見えない恐怖 このSSに感想をつける
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散歩した冬の日に 25KB ギャグ 野良ゆ 都会 借ります ゆっくりぬるいじめ 皆さんは、ビルなどに取り付けられている排気口をご存知だろうか。 いや、正確に言えば、そこから吐き出される空気の事を。 エアコン、空調設備なんてものは文字通り、室内の空気を入れ替えるためのものだ。 当然そこに至る過程として、外から空気の取り込み、そして中から空気の排出が必要となる。 途中機械による温度の変更や、それに類するものも含まれるのだろうが、それは今語る必要はないだろう。 それ自体は何の変哲も無い事実だ。ケチをつけるつもりも無い。 私だって現代人、エアコンという文明の利器に頼った経験がある。あれは素晴らしい物だ。 ただ、それは「中」からの話。 「外」側からとなると、少々都合が違ってくる。 これは、私の完全に個人的な経験から来ている話なのだが。 とある夏の日。 道を歩いていたとする。そう、ビルの間に挟まれたような小さい路地裏だ。 そこでふと見ると、右か左、どちらでも良いがどちらかのビルに排気口がこれ見よがしに取り付けられているのだ。 別に障害物となるわけではない。気に病むほどの事は無く、ただ通り過ぎれば良いだけ。 歩を進め、排気口を通り過ぎようとしたその時、 むわっ。 吹き付けられる風、と言うか空気の塊。 何とも言えない微臭。 そして何より、糞暑い中、それなりに溜まっていた苛つきを更に煽るような生暖かさ。 私は破壊衝動を高め、そこら辺にいるゆっくりを踏み潰しながら、往く、もしくは帰る。 排気口から流れ出す空気とは、かくもその様な悪意に満ち溢れた代物なのだ。 まったくもって救い難い。地球温暖化とかより先にこの問題を解決してもらいたいものである。 今のは夏の話だったが、冬もこの生暖かい風は絶賛稼動中だったりする。 夏に比べればそれなりに邪魔ではないにしても、それでもやはりちょっと臭かったり、気持ち悪い。 そもそも暖まりたければどこか室内に移動して暖房の恩恵を被ればよいのだ。 多くの人間様は、こんなものに頼る必要性を持ち合わせていない。 やはり排気とは読んで字の通り、「排」される空「気」以外の何ものでもないのだ。 いろいろと長く語ってしまったが。 まぁ、何が言いたいかっつーと。 「おがぁしゃん……しゃぶいよぅ……」 「あっちゃかいところにいきちゃいよ……」 「まりしゃ……ゆっくりしたいぃ」 「ゆっく…ぶるぶるさん、とまってね……」 「だいじょうぶだよ、おちびちゃんたち……ここならあったかいから、おかーさんとゆっくりしようね……?」 その排気口から垂れ流される温風を、身を寄せ合いながら受けているゆっくりの一家を見つけたというだけなんだけどね。 散歩した冬の日に 漸く寒くなってきた最近。 とは言っても、気温の変化は緩やかとは感じ難かった。 季節の変わり目は急だと云うが、よもや風呂入ったら秋から冬だったでござる、なんて感想を抱くとは思ってもいなかったのだ。 それ程までに寒い。正直もう既に夏が恋しかったりする。 夜にもなると更に寒さは顕著となり、息を白くして道を歩く日々である。 厚めのコートにズボンを穿き、自動販売機であったか~いコーヒーを買いながら家へと帰る。 今日もそんな一日の筈だった。 目の前に居る饅頭一家という例外さえ除けば。 でかい親ゆっくりと思われる、れいむ種が一匹。 その側には様々なサイズの子ゆっくり、子れいむ、子まりさが纏わりついている。 大体片手で数えられる程度の数。 何処ででも見かけ、何処ででも死んでいる程オードソックスな一家だった。 「ほら、おちびちゃんたち!みんなでいっしょにくっつけば、もっとあったかいよ!」 「ゆ……ゆんしょ……ゆんしょ……」 「ちょっとだけあったかくなってきたよ……」 「ゆっきゅ……ゆっくり」 「でもまださむいよぉ……」 饅頭が押しくら饅頭してる。 なんの諧謔だろう。 「……おかーしゃん、おとーしゃんかえってくるのいつ?」 「ゆ……」 「おとーしゃんはやくかえってきてほしいよ……」 「あったかいおうちみつけてくるっていってたよ……」 「おいしいごはんしゃんに、あまあましゃんもとってくるって……」 「まいしゃたち、もうまちぇないよぉ!」 「ゆ、ゆ……もうちょっとのがまんだからね、まりさはもうすぐかえってくるから……」 「おかーしゃん、もうかえろうよぉ……」 「……だめなんだよ、おちびちゃん」 「どーしてぇ!?おかーしゃん、もうおうちかえろうよぉ!」 「れいむたちは、『いそうろう』だったから……。もうあそこは、れいむたちのおうちじゃないんだよ」 「でもぉ!ごめんなしゃいすれば、きっとありしゅおねーしゃんだって……!」 「……だめなんだよ」 ……………………。 「だから、まりさがもうすぐあたらしいおうちをみつけてくれるから、それまでがまんしようね……」 「れいむ、おかーさんをこまらせたらだめだよ…?おねーちゃんといっしょにがまんしようね……?」 「わかっちゃよ!まいしゃもがまんしゅる!おとーしゃん、もうしゅぐかえってくるもん!」 「ね、れいむ、いもうともがまんするっていってるよ?」 「……ゆ、わかっちゃよ、れいみゅ、がまんしゅる……!」 (……邪魔だなぁ……) 苦い温もりを含みながら、そんな事を考える。 この道は帰宅時における最短ルートなのだ。 今更迂回すると言うのは面倒だし、ゆっくりに遠慮してやる理由などこの広い宇宙を隈なく探しても見つからない。 よし。押し通るか。 決めた所で、再び歩を進める。 硬い靴底が床に当たり、その音は一家にも聞こえたようだ。 「ゆ!にんげんしゃん!」 真っ先に気付いたのは幼い子まりさ。 そこから親れいむ達が振り返り、それぞれ興味、警戒、そして恐怖の表情を浮かべている。 前者は末女辺りの子ゆっくり、後者は長女から親れいむ。 一応ゆっくりにも経験の差はあるということか。 「にんげんしゃん!ゆっきゅりしちぇいってね!!!」 「おねーしゃん、ゆっくり!!」 「ゆ、ゆっくりしていってね……?」 「……れいむ、まりさ……」 見るからに小さい子れいむ、子まりさの二匹(幼れいむ、幼まりさとでも呼ぼう)は物怖じせずに挨拶。 それよりも二周りほど大きい次女(だと思う)まりさは明らかに警戒している。 亜成体ほどの長女(だろう)れいむに至っては妹達を逃がせるように何かの算段をしているようだった。 さて、親れいむは。 「………………」 ………仮に、初対面の相手がいきなり目の前で地面と熱い接吻を交わしていたら、 その意図が何であるか多少の時間は要すると思う。 見紛う事無く平伏叩頭。 どう悪意的に解釈しても、土下座以外の何ものでもない。 あるいは辞書の範例になりそうな程の、「下手に出る」態度。 自尊心だけは地球上の何者にも負けないゆっくりというナマモノが、こうまでする意味。 このれいむが今までのゆん生でどれだけ辛酸を舐めたか、この行為だけで想像できた。 「おい」 とりあえず、声をかける。 出会っていきなり土下座されるような悪行を、私はまだしていないつもりだ。 びくりと震えるデカ饅頭。恐る恐るといった様子で顔を上げ、私を見る。 分かり易い、滑稽な程の、怯えが目の中に見て取れた。 「………れいむはどうなってもいいですから、おちびちゃんだけはたすけてあげてください……」 「は?」 「おちびちゃんたちはゆっくりしたいいこなんです、れいむがかわりになんでもしますから………」 おいおいちょっと待て。土下座の次は命乞いか。 何を言っているんだこいつは。 そんなに私は恐ろしく見えるのだろうか。 少し傷付いたような気がしないでもない。 「どうか、どうかおちびちゃんたちだけは……」 「いやちょっと待て」 「ゆ?」 「いきなりそんなこと言われても意味分からん。 とりあえず私にはあんた達を殺す気は無いよ」 「ゆ!?ほ、ほんとうですか!?」 うん。とりあえず今のところは。 口には出さずに首肯だけ返す。 「私は此処を通りたいだけ。あんた達が邪魔だったから声をかけたの」 「ゆっ……よかったよぉ……」 へなへなと、その場に崩れ落ちるかのように身体を弛緩させるれいむ。 だから邪魔なんだが。 人の言うことを聞いているのだろうかこいつは。 「ねぇ、私はここを通りたいだけって言ったよね?さっさと退いてくれない?」 「ゆっ、わ、わかりました」 おちびちゃん、と声をかけて道の脇にどくれいむ一家。 冷えたビルの壁に体が触れて「ちゅべたい……」と子れいむが漏らす。 だがそこから動こうとはしない。一家揃って直立不動、私の邪魔をする気は皆目無いようだ。 「………………」 道は空いた。 もう私はまっすぐにこの道を行けるだろう。 そこには何の障害も無い。 が、私の心には一抹の好奇心が発生しつつある。 その対象は、このれいむ一家。 冬のうらびれた路地裏に佇む、どう見ても凍死を目前に控えたこの哀れな饅頭たち。 これだけならば何処にでもいるそこらの野良と変わらない。 ―――――だが。 随分と、お行儀が良いじゃないか? いっそ場違いな程、このれいむ一家は礼儀正しい。 テンプレならばここらでゲスクズカスと三拍子揃った糞饅頭が出てくるはずなのに。 不思議なことにこの一家は、少なくとも人間を恐れ、逆らおうとはしないように見える。 ………なんでだろうね? 一度気になったからには聞いてみたくなるのが人の性分。 私もその範疇にはしっかりと含まれている。 ならば聞いてみようじゃないか。 「ねぇ、あんた達………」 「ゆ?」 「れいむたちは、あっちのほうからきたゆっくりなんだよ」 そう言いながら、闇夜のどこか一部分を示すように見るれいむ。 あっちの方って。分からんがな。 「そこにはたくさんゆっくりがいて、みんなできょうりょくしてくらしあってて……」 「れいむたちはそこのありすに、『いそうろう』させてもらってたの」 「でも、もうすぐふゆごもりだからって、こんなにたくさんのめんどうはみられないって……」 「だから……だがらぁ……れ、れいぶは、ばでぃざといっじょに、あだらじいおうぢをぉ……」 「あー分かった分かった、いいから泣かない」 今此処に至るまでの道程を噛み締めているのか、徐々に泣き声交じりになっていくれいむの話。 きっと饅頭なりに辛い事があったのだろう。果てなくどうでも良いが。 「で、そのまりさは何処に行ってるの?」 「まりさは……あたらしいおうちとごはんをみつけて、れいむたちのところにかえってくるって……」 「ふーん」 逃げたか。 もしくは本当に新しい住居を探しているのかもしれないが、現実はそう甘くは無い。 今もまりさはこの寒空の下、存在するかも分からない『おうち』を見つけようとしているのか。 「ところで、何でその、群れ?を追い出されたのか、良く分からないんだけど」 「ゆっ、それは……」 「働かなかったなら、それは分かる。 でもさ、あんた達は見たところ、怠け者っていう風にも見えない。なんで?」 「ゆゆっ、ゆっ……………」 「……………………ああ、成る程」 れいむの話を聞きながら、私は最近読んだ本に書かれていた内容を思い出す。 あれは―――確か、都市部に於けるゆっくりの行動学、だったか。 ―――ゆっくりにとって、冬とは即ち死の季節に他ならない。 飢えに倒れ、寒さに凍え、それを避けようと穴蔵に篭り、またそこで不慮の死を量産する。 年がら年中死に続けているゆっくりだが、冬とそのほかの季節では死亡率に差があるのだ。 これは野良、というよりも、むしろ野生のゆっくりがそうであると云えよう。 では野良ゆっくりはどうであるか。 驚くべきことに、野良ゆっくりの冬における死亡率は、他のそれを下回るのだ。 (ちなみに、それでも野生のゆっくりが1匹死ぬ間に野良ゆっくりは2~3倍ほど死んでいるのだが、事実は事実だ) 自然の摂理に逆らうかの如きこの現象は、大別して三つの理由から説明付けることが出来る。 一つ、寒さを凌げることの出来る場所の多さ。 街には、様々な所にゆっくりが隠れ住むことの出来るスペースを有している。 例を挙げれば、路地裏の目立たぬ一角、公園の隅、自動販売機の下、或いは公衆便所、或いは高架の下、etc。 加えて、段ボールでも確保できればそれ自体が即席の住処としても機能するのだ。 現に、この一家はひとまず寒さを凌ぐことに成功している。 本当にひとまず、ではあるが。野良ゆっくりにとって巣とは、「隠れ住める」という条件も必要になる。 一つ、ゆっくりの活動減少。 冬になれば、ゆっくりはその寒さから多くの行動を控えるようになる。 気軽に外へ出ようとはせずに、巣に篭りがちになる。 普段用も無く外出するゆっくりは、外敵(主に人間)との遭遇により命を落とすことが珍しくない。野良ゆっくりは更に顕著だ。 だが反面、冬にお決まりの飢えとはそれほど縁が無い。人間が出すゴミという食料のためだ。 野良ゆっくりは人前に姿を晒さなければ、安全に生を送れると言っても過言ではない。 もっとも、この一家はこの時期に巣を探し、あまつさえ人間に見つかってはいるが。 最後に一つ、これが最も大きい理由となる。 これは近年になって確認されてきた事項であるが…… 野良ゆっくりは、他ゆっくりとの相互間における協力度合いが、野生ゆっくりのそれとは比べ物にならないほど高い。 これは、野良ゆっくりの主な死亡原因、外敵の多さにそのまま起因する。 通常、ゆっくりとは自侭な性格で協調性がほぼ無い、という認識が一般的だろう。これは凡その所、正しいと言える。 しかし野良ゆっくりは苛酷な環境を生き抜くため、狡猾さという特長を備えた。即ち、他者を利用する事を。 例を挙げよう。 人間のゴミ捨て場を、10匹のゆっくりが窺っている。 目の前にはゆっくりからすればご馳走、宝の山。我慢しきれずに一匹のゆっくりが飛び出していった。 だが、残り9匹は動かない。凝と走る一匹の後ろ姿を見つめている。 それは何故か? 簡単である。 欲に駆られて飛び出せば、罠に掛かるかもしれない可能性を考慮したためだ。 9匹の危惧通りに現れた人間は、哀れなスケープゴートを踏みつけ、掴み、何処かへと連れて行く。 その隙を突いて、9匹はそこそこの量の獲物をきっちりと分け合った。 欲張れば諍いが起きる。そしてそれは時間を食う。いつ人間が戻ってくるか分からないのに、暢気に喧嘩?冗談ではない。 急がば回れ。慌てる乞食は貰いが少ないのだ。 かくの如し、ゆっくり達は他者を競争相手であり、撒き餌であり、盾であり、仲間と見た。 狡猾は一種の協調性と成し、それはある種の協力へと発展したのだ。 知っての通り、ゆっくりは弱い。一匹だけでは脆弱も極まるだろう。 だが多数のゆっくりが団結し、一つに纏まればその力も大きくなるのは自明の理。 野良ゆっくりは『情報』というものの価値に気付き、それを共有し始めたのだ。 直接の利害関係になくても、他者を知っているという事実は重要なことになる。 何故ならば、それは「知り合いがそこに居る」という事実自体が既に大切な情報だからだ。 もしも、知る筈の者が居なければ、そこに何らかの危険があったという可能性も考え得る。 他者の存在自体が、その場所の安全を確保しているという証明に他ならないのだ。 かくして、野良ゆっくり達は一種のコミュニティとも呼べる情報網を作り上げつつある。 これにより、保健所や加工所の野良ゆっくり狩りは、その効率を大きく引き下げることになるだろう。 コミュニティは、最低限度の能力を持つゆっくりさえ居れば、その数に正比例し拡大する――― と。 本の内容と現状をすり合わせるうちに、大体の話は掴めた。 コーヒーを一口飲む。少し冷めてきたな。 この家族、少なくとも親れいむか親まりさは、『最低限の能力を持つゆっくり』以下の、穀潰しだった様だ。 先述のように、ゆっくり間のコミュニティは最低限度の能力さえあればいくらでも大きくなる。 逆に言えば、その能力が無い奴、それどころか皆の足を引っ張るような無能者も居るということに他ならない。 これまでれいむ一家がコミュニティに属していられたのは、何らかの情けでもあったのだろう。 来る冬に備えて、口減らしとして切り捨てられるのは寧ろ当然といえる。 そしてれいむ一家の行儀の良さもなんとなく理解できた。 こいつらは、それ以外に能が無かったのだ。 居ても居なくてもどちらでも構わないが、人が良いからとりあえず邪魔にはならない。 そんな程度の存在。 頭を下げ、媚び、諂い、情けを恵んでもらう。 無能が無能なりに編み出した処世術だったのか。 成る程、れいむ一家が此処でこうして路頭に迷っているのは、当然の結果なのだ。 寒さに震えるのも、惨めな思いをするのも、全て自業自得に過ぎない。 それに、まだこの一家は幸せな方だろう―――寒さに震える、という行為自体を行えないゆっくりはそこらじゅうに居る。 「ゆ、おねえさ……」 「寄るな、臭い」 「ゆ、ごめんなさい……」 近寄ろうとしたれいむから距離を置く。 元から野良の身なりの上に、排気口の風をたっぷりと浴びたれいむ一家の臭気は少々耐え難いものがあった。 コーヒーの残りを流し込む。 もうこの一家に対する興味は薄れてきていた。 やはり、何処にでも居るありふれた野良ゆっくりでしかなかったのだ。 それがどれほど善良な個体だとしても。 多少、気の毒ではある。 だが私には何もしてやれないし、する気も無い。 そこまでする義理も情けも私は持ち合わせていない。 ―――もう、帰るか。 そう、足を踏み出そうとして、 「おねーしゃん」 「ん?」 幼まりさの呼びかけに、振り向いた。 何の用だ。 口には出さずとも、そう表情で問い質す。 幼まりさの顔には純粋な好奇心が見えた。 「おねーしゃん、そのごくごくしゃん、おいしい?」 「あ……? コーヒーの事?」 「ゆん、そのこーひーしゃん、おいしい?」 キラキラした瞳でそう訊いてくる幼まりさ。 その隣にいる幼れいむも、喋らずとも似たような態度だ。 「不味い。少なくともあんた達には。 それに私は、あんた達にあげる気は無いよ。もう無くなっちゃったし」 「ゆぅ」 「じゃんねんだね、まりしゃ」 しょんぼりする幼まりさ、そしてそれを慰める幼れいむ。 ……やけに諦めが良かった。 やはり野良の割には、性格が良い。 「……っお、おねえさん!」 再びれいむが私を呼ぶ。 さっきから何だ。 「おねえさんに、おねがいがあります!」 お願いとな。 ………嫌な予感がする。 褒めた途端にこれか。 「おねえさん、どうか―――」 もみあげでリボンの付け根辺りをまさぐるれいむ。 そうして取り出した先には、 「これで、おちびちゃんたちにぽかぽかさんをかってあげてください!」 それはどう見ても、千円札以外の何物でもなかった。 「……………ぁえ?」 我ながら、素っ頓狂な声が出た。 あれ? そこは「れいむ達を飼って下さい」じゃないのか? そうして分不相応な願いを以って、人間の怒りを逆撫でするのがゆっくりだと思――― 「っていやいやいや、れいむ、それは一体、何?」 「………ゆ?………おかね、だと、おもいます………」 尻切れトンボになっていくれいむの声。 いや、確かに合ってはいるんだが。それは紛う事なきお金だが。 「たまたまひろったけど……れいむはゆっくりだから、おかいものができないんです……」 それはそうだろう。 飲食店の野良ゆっくりに対する心証は、『悪い』どころでは済まされないものだ。 見つけ次第追い払い、酷い場合は(そしてそれが殆どだが)殺してしまう。 加えて、自動販売機なども――身長などの理由で――ゆっくりが使えるような代物ではない。 総合して、ゆっくりが持つ金銭など、猫に小判の喩えそのものと言って良い。 「おねえさんは、れいむたちのおはなしきいてくれたいいひとだから…… おねえさんならきっと、ぽかぽかさんをかってくれるとおもって………!」 ゆっくりが持って無意味なものでも、人間が持てば意味を持つ。 ならば、人間に頼んで買い物をして貰おうというのか。 それは、全く以って正しい。 「おねがいじばず!!おぢびぢゃんだぢに、どうかぽがぽがざんをがっであげでぐだざい!!! ほがのひどにはたのべないんでずぅ!!おでがいじばずぅぅ!!!」 再び土下座。それも滝のような涙を流して。 必死すぎる。 逆に言えば、それだけ追い詰められているということか。 「おでがいじばず……どうか、どう゛かぁ………」 冷えた道路は痛みさえ齎すだろうに、それでもれいむはぐりぐりと己の顔を擦り付けている。 「………あのさ、そこは普通、『れいむ達を飼って』とか、そんなんじゃないの? そうすればこんな場所に居る必要もないんだし……」 ピタリ、とれいむの動きが止まる。 そこから一際大きく、ブルルッ、と震えた。 「………れいむ゛たちは『のらゆっくり』だから゛、かっても゛らうなんてむ゛りなんです………」 「は?」 「ぱちゅりーも、ま゛りさも、おむかいのれいむも…… 『にんげんさんにかってもらう』っでいって、それで、ずっどゆっぐりしぢゃいまじだぁ」 「ほがにも、たくざん、たぐさん……『かいゆっくり』になろ゛うとして、ゆっぐりしちゃったゆっぐりが、いる゛っで。 ありずが、おじえでぐれまじたぁ」 「だがらぁ……どうか、おねがいじまず……おちびぢゃんに、ぽかぽかざんをぉ…… それだげでいい゛んでず、どうか、どう゛かぁ………!!」 「………………………………………は、ははっ」 思わず。 笑ってしまった。 自分達は野良ゆっくりだから、どう頑張っても飼いゆっくりにはなれない、か。 何匹も何匹も、そんな幻想を求めて死んでいった仲間を知っている、か。 だからそんな夢よりも、今はよりちっぽけなものに縋りつきたい、と言うのか。 ―――――このれいむ、弁えている。 素晴らしい。 全く素晴らしい。 これほど面白いゆっくりに会ったのは久しぶりだ。 拍手喝采を送りたいほどだ。 無能だから群れを追い出された? 馬鹿を言うな。 こいつらにはそんな事より大事な、己の分というものを知っている。 寧ろ野良でいさせることが惜しいほどだ。 「れいむ」 「ゆ゛、はい゛っ」 思えば何と不憫な連中だろう。 生まれる場所さえ違っていれば、きっとこの一家は幸せな一生を送れたはずなのだ。 それをどう間違えたか、こんな場所で、こんなに哀れに。 だから。 初めはそんな気など微塵も無かったのだが。 「その千円札、よこしなさい。 ………買ってきてあげる」 ここは一つ、情けをかけてやろうじゃないか。 「ゆ゛ぅ……よかった……よかったよぉ……!」 「おねーちゃん、ぽかぽかさんたのしみだねー」 「ねー」 そんな会話を離れて聞きつつ、私は自動販売機の前に立っていた。 手の中の千円札は薄汚れている。 だがまぁ、使えないほどではない。 れいむ達は「ぽかぽかさん」と言っていたか。 その要望を叶えるには、コーヒー……では不可だろう。 ゆっくりの舌には苦すぎて、とても飲めた物ではない。 相応しいとするならば、恐らくこれであろうか。 「あったか~い」と銘打たれている、つぶ餡入りお汁粉、120円。 一本で十分だろう。そういえば、釣銭をどうするか聞いていなかった。 ………頂いてしまおう。 他に、めぼしい物は……無し。 と、すれば決まりか。 指を伸ばしてボタンに触れ、 ―――――お決まりの落下音。 私は取り出し口から目的のものを取り、釣銭用のレバーを引く。 戻ってきたのは500円玉一枚に、100円玉が四枚。 900円だった。 「お待たせ」 「ゆわーい!!」 「ぽかぽかしゃんだー!!」 「ゆううぅぅぅ!!ありがとうございばず、ありがとうございばずぅ……!!」 戻ってきた私を迎えたのは、歓喜と感謝の声。 特にれいむは、三度目の土下座をするほど感極まっていた。 「おねーさん、それがぽかぽかさん?」 「ああ、そうだよ」 「おねーちゃん!ぽかぽかさんだってー!!」 「やったね、まりさ!!」 長女れいむと次女まりさも喜色満面、最初の警戒が嘘のようだ。 「おねーちゃん、ありがちょー!いっしょにゆっくちちようね!!」 「れいみゅも!!れいみゅもいっちょにゆっくちしゅる!!!」 「そうだね、一緒にゆっくりしようね」 適当に相槌を打つが、それでも幸せそうな満面の笑顔。 思えば最初から幼まりさと幼れいむは私に対して一切の警戒を抱かなかった。 「このごお゛んは、いっじょうわずればぜん!ありがとうございばずうぅ!!!」 「いいんだよ、そんな大層なものじゃないし」 れいむの金で私が買い物をしたと言うだけの話なのだから。 「ほら、あんた達。そこに並んで、口を空けて」 「ゆ?」 「今から私が飲ませてあげるから。 あんた達、手が無いでしょ?コレを噛み千切るってのは無理があると思うし」 「ゆ、そうだね!ありがとうおねえさん!ゆっくりひらくよ!!」 そのまま「ゆぁ~ん」と、一様にその大きな口を開けるれいむ一家。 少し苦笑してしまう。私が言い出さなかったら、どうするつもりだったのか。 まさかまた他の人間を捕まえて、開けてくれるように頼みでもする気だったのかもしれない。 出会って数分、たったそれだけの時間でこの一家は私をここまで信頼している。 もはや野良ゆっくりには見られなくなった気質。 おそらくこれが、本来の「ゆっくり」という奴なのだ。 返す返すも、このゆっくり達が不憫でならない。 こんな所で寒さに、飢えに苦しむのは彼女達にとって不幸でしかない。 出来得る事ならば、そんな目には遭わせたくなかった。 私と別れた後も、彼女たちは不幸でい続けるのだろう。 それを回避するには、どうしたら良いか。 だから私は、そっと、 ―――――ペットボトルのキャップを外し、中身のミネラルウォーターをぶち撒けた。 「ど、どぼ、どぼぢで」 今度こそ本当に帰ろうとした私を、れいむが呼び止める。 歯の根が合わず、ガチガチと鳴らすその姿は「暖かい」などと云うものからは無縁だろう。 ―――当然だ。頭から冷水を被って、濡れ鼠ならぬ濡れ饅頭になったのだから。 むしろ今すぐ凍死してしまわないのが不思議な程だ。 「お゛、お゛ね゛え゛ざん、どぼ、じで、ごんな゛、ごど」 息も絶え絶えに言葉を紡ぐれいむの側には、同じく4つの濡れ饅頭。 長女れいむと次女まりさはひたすら震えるだけの物体と成り果てている。 幼れいむと幼まりさは……水を掛けられたショックで逝った様だ。ピクリとも動かなかい。 「れ゛、れ゛いむ゛は、お゛ね゛えざんを」 「あのね、れいむ」 振り返りつつ、答えてやるとする。 きっとれいむは、何故私がこんな事をしたのか知りたいだろうから。 「どうしてこんな事をしたのか、ですって? 決まってるじゃない。簡単なことだよ」 「―――あんた達が可哀想だったから、情けをかけたのさ」 それに尽きる。 でなければ、どうして私がこんな事をするのだろうか。 この無能な家族は、野良には相応しくない善良なゆっくりだった。 そして野良らしく、惨めに苦しんでいた。 寒さに震え人に慄き、帰るかどうかも分からない父親を待っていた。 それを哀れと思うのに、不思議な点など何一つも無い。 仮に、私がれいむの為に餌を恵んでやったとする。 それは感謝されるだろう。つい先ほどまでのように。 だが、それで終わりだ。 後の彼女たちを待つのは、長い冬と、寒さと、飢えしかない。 それを見過ごせないのなら、いっそ本当に飼いゆっくりにしてやれば良いか。 生憎だが私は、そこまで優しくはない。 哀れだと思うから飼ってやる――とは、どうしても思えない。 れいむも弁えていたように、野良ゆっくりが飼われる事など、そう有り得る話ではないのだ。 では、どうするか。 その場限りの情けは無用。飼ってやる程の義理は持ち合わせていないとなると、何をすれば良いか。 幸いにも私は、その問いに対して一つの答えを持っている。 出来るだけ苦しまずに、死なせてやれば良い。 どうせこの先生きていても、野良ゆっくりに幸福など訪れない。 で、あるならば――すっぱりとその生を断ち切ってやるのも良いのではないか? そう、例えば、凍死とか。 濡れた身体とこの寒さは、容赦なく体温を奪っていく。 やがて感覚は麻痺し、寒さというものすら分からなくなって、ただ凍えるよりも簡単に、呆気なく、逝く。 じわじわと押し寄せる冬や、飢えや、あるいは人の暴力に晒されて死ぬよりも―――何倍もましな死に方だろう。 だから私はこの行動を選択した。 一日生かして残りを苦しみ抜かせるより、苦しみを味わわせる前に終わらせてあげた。 これこそ慈悲というものだ。 「まぁ、なんだ。あんた達」 涙も凍りついた、と言う表情のれいむに告げる。 「今回、って言うかさ、生まれつきが悪かったと思うんだ。 よりにもよって、野良ゆっくりの、れいむ、まりさ種とか」 れいむ達は、私の気持ちを理解しないだろう。 が、構わない。 『救い』には、こういう形もある。 「だからさ、来世――があるとすればだけど……… その時にはもうちょっと、ましなものに生まれてこよう、な?」 もう振り向かない。 私は家へと続く道を歩き始める。 れいむはもう、何も言わなかった。 帰り道を歩きながら、ふと思う。 ―――情けをくれてやったのは良いが、あれはゆっくりの死体という生ゴミを作り出す行為ではなかったか? しまった。 その事に考慮が全く行き届いていなかった。 個人的動機で、公共の場を汚すなどあってはならない事だ。 明日の朝は、ゆっくり酔うビニール袋でも持って行った方が良いかもしれない。 凍りかけの饅頭5個がそのままになっていたら、私がしっかりと回収しなければ。 自分で出したゴミは、自分で捨てる。当然の事だ。 そう思いながら、私は歩き続けた。 これは蛇足だが、歩いている途中にゆっくりの死体を見つけた。 ゆっくりまりさ、だったと思われるもの。 顔が潰され、帽子も無いのであくまで推測に過ぎないのだが。 大きさは、ちょうど先程のれいむと同じくらい。 点々と続いていた餡子から推測するに、こいつは私のもと来た道に向かっていたようだ。 まぁ、それがどうしたと言うことも無く。 私は気にせず、そのまま去った。 おわり * * * * * 話の構成的に駄文。 だけどゴミ箱に沈めるのも勿体無いので、こうして供養させました。 ゲスをぶっちめるのも良いけど善良なゆっくりを理不尽に絶望、蹂躙するのも素敵だと思うんだ。 お久しぶり。 色々忙しかったけど人心地ついてまたSS書きました。 ほら、これリハビリも兼ねてるから「つまらん」とか「善良に見せようと無理して装ってない?」とか叩かないでね! byテンタクルあき 過去作品 ふたば系ゆっくりいじめ 2 散歩した春の日に ふたば系ゆっくりいじめ 3 ちょっと鴉が多い街のお話 ふたば系ゆっくりいじめ 22 伝説の超餡子戦士 ふたば系ゆっくりいじめ 38 とある野良ゆっくり達の話 ふたば系ゆっくりいじめ 46 散歩した5月の日に ふたば系ゆっくりいじめ 48 ゆうかにゃんと色々してみよう! ふたば系ゆっくりいじめ 128 れいむとまりさがだーい好き!! ふたば系ゆっくりいじめ 136 つむりはとってもゆっくりできるんだよ! ふたば系ゆっくりいじめ 324 散歩した秋の夜に ふたば系ゆっくりいじめ 372 新世代清掃工場 ふたば系ゆっくりいじめ 385 どうしてそう思ったの? ふたば系ゆっくりいじめ 386 最終地獄 テンタクルあきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ↓はいはいニートニート -- 2016-01-31 10 50 22 内容も好きだが文章、というか文体も好きだ 良質なSSを読ませてもらいました。感謝 ただ冒頭の排気口の流れ、エアコンは熱交換だから内部の冷却に対して外部に熱排出がある それは分かっているような口ぶりだが、地球温暖化云々を言うなら冷房自体をやめろというに他ならず 無知なのかなんなのかよく分からない。 もっとも、このお姉さんがそうだというだけで作者はそういうキャラを描いただけだと思うが 冬場は暖房の熱交換で室外機は冷気を吐き出すんだけど、温風と言うことは ボイラーの廃熱とかの暖房機の排気なのかな? 無煙とは言え油の燃えた臭いは確かにキツイw -- 2012-12-30 16 17 56 120円のお汁粉買ったはずなのに、釣りが900円ってのに首をかしげたんだが。成る程。確かに水なら100円でかえるもんな。 -- 2011-09-08 06 03 51 でいぶのおぢびぢゃんがああああああああああ!! とか言う間もなく逝ったのかね? あ、それはゲスのセリフかw それにしてもこのおねえさん冷めてるなぁ・・・素敵だ -- 2011-08-27 02 51 00 >なぜわざわざ水掛けたんだこの人? おもしろいからでしょ 温かいあまあまが来ると思ってるところに冷水をぶっかけるなんて最高じゃないw 苦しまずに死なせたいとか言いながら虐待しちゃうところがまたおもしろいw -- 2011-05-26 05 27 14 苦しまずに死なせたいならサクッと潰してやればいいじゃないの もっと手軽で金もかからず何より自分の目的に沿った方法があるのに なぜわざわざ水掛けたんだこの人? -- 2011-05-24 00 30 16 これめっちゃおもしれえ!!パネェゆっくりできたよ!! 善良理不尽虐待は最高だね! まあこのSSのおねえさんは理不尽だとも虐待したとも思ってないけどね 筋が通っていないという意見もあるようだが饅頭に筋なんか通さなくていいよ むしろ理不尽だからこそ楽しいんだよ このSSでゆっくりできなかった人はおそらくゲス制裁が好きで 善良は幸せになってほしいタイプの人だろうと思うけど 善良理不尽虐待が大好きな人だっているし、どっちが偉いなんて事はないんだから お互いを尊重し合いましょうよ ただし愛では逝ってよし! 特に自分の考えたオリジナルゆっくりを過剰贔屓する奴は地獄行きな!! -- 2011-03-10 13 17 55 コメント欄にはあきれるばかりだな お前等はゆっくりを人と同等クラスに例えて話を読みすぎだ 意思を持って人語の話せる畜生以下の「物」として扱うのが普通だぞ? そしてそのクズが苦しんでる中、苦しみを終わらせる為に人間の時間を使う事が どれだけ慈悲深い事か考え直せ -- 2010-11-26 04 18 50 ナルシストに感じたなー ゆっくりから金巻き上げただけにしか見えない -- 2010-10-21 20 32 33 でも筋を通さない虐待お兄さんとか美学がない感じがして嫌だ -- 2010-09-11 15 58 05 いじめSSWikiなんてトコロで「自分は筋の通った事しかしない立派な人間」を主張するなんてカッコいいね! -- 2010-08-22 23 34 50 憐れな末路なゆっくりは心がなごむね。 -- 2010-08-20 15 37 57 まあ、ゲスじゃなかったから一発で殺してやればよかったんじゃないかと。 おもしろかったよ -- 2010-07-26 05 15 30 「これこそ慈悲というものだ」?「『救い』にはこういう形もある」? 自分で完結させた常識を他者に勝手に当てはめて命奪ってああいいことしたって、完全にナルシストのゲス人間の発想だなおい 虐待するなら自分の負の部分をまっすぐ見ることは必要なはずだ そうじゃなきゃただの気狂いの犯罪者となんら変わりない 虐待しといて自分の善人っぷりに酔ってるような人格は最低だと思う -- 2010-07-25 00 56 21 あまったおしるこさんはちぇんにちょうだいね わかってねー -- 2010-07-14 19 30 32 水をぶっかけるとか、このお姉さんとっても都会派ね。 -- 2010-06-30 09 43 48 お汁粉食べさせてやれよ。 「しあわせー」状態でうっとりしている間に、苦痛に無いように即死させてやれよ。 やってることが「持ち上げて➝落とす」タイプの虐待じゃん。 -- 2010-06-30 06 24 51 おねーさん素敵過ぎ -- 2010-06-27 01 01 04 こういうの好き。 -- 2010-06-11 04 47 10 ゲスゆっくりの話かと思ったらゲス人間の話かよ・・・ 情けをかけるならせめて汁粉かけてから殺せよ 貧乏人だから楽にしてあげる精神は優越感からくる侮蔑だ -- 2010-03-18 00 29 04
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まえがきという名の弁解 ゆっくりを全然いじめてない上につまらないです 後半と前半でテンションがまるで違います ゆっくりらしい台詞はほとんど出てきません 一応ドスものです それでも構わんという心の広い人だけ読んでね 見ただけで気が触れそうな満月の夜。 人も近づかない、近づけないような森の奥深くを、ゆっくりと丸い巨体が進んでいく。 そのまん丸い巨体の頭頂部にのった巨大な黒いとんがり帽子。 ドスまりさだ。 しかし彼女はどうやら普通のドスとは様子が違った。まず髪に信頼の証の飾りがなく、 いつでも楽しそうなゆっくりと違い、一言も喋らず、やや物憂げな顔で歩みを進めている。 帽子の中にいくばくかの必需品はあるが、他のゆっくりなど一匹も入っていない。 このドスは他のゆっくりから信頼されていないのか? いや、違う。どのドスよりもこのドスは信頼されていたし、このドスもそれを自覚していた。 だからこそ、権威をふりかざすような真似に必要性を見出せず、飾りをつけようとするゆっくりをやんわりと断っていた。 帽子の中に他のゆっくりを格納しないのも、他のみんなに自分に守られるだけの存在になってほしくなかったからだ。 このドスはかなりの過酷な経験をしてきた。普通のゆっくりの時も、壮絶な生を生き抜き、ドスになれた。 ドスになり、群れを作った。その頃は飾りもつけ、帽子の中にゆっくりを入れて運んだり、遊んでやり、普通の標準的なドスだった。 いつまでも群れの幸せが続くと思っていた。しかし、それは間違いで。 やはり標準的なドスの群れのように、群れはゆっくり崩壊に近づき、やがて自分だけが生き残る。 生き残り、また群れを作った。また崩壊させた。 ある時は人間に騙され、ある時は反乱勢力が台頭し、ある時は自分たちを捕食するものに襲われ、ある時は… そうした繰り返しの中、幾度も守るべきものを奪われ、それでも崩壊しそうな理性をつなぎ留め、歯を食いしばり、目から餡子を流しながらこのドスは生きてきた。 そうしてようやく気づいた、自分がゆっくりを守るだけでは駄目なのだと。 己を己が守れるようにしてやり、自分はそれを精いっぱい手助けする。それこそが崩壊を防ぎ、群れを長続きさせる最善なのだ。 強烈な一つの個ではなく、小さな個を集めて強大な一つとする。それがこのドスのたどり着いた結論。 そのための群れの掟や、制度、システムを、実験を繰り返しながら練り上げた。 その途中で、人間という存在は自分たちと切り離された。彼らとは、出来るだけ関わらない方がいい。 そして、人間も滅多に入り込まぬ森に居住区を移した。 リスクはあった。外敵の存在、人すらあまり手をつけない自然環境。 しかし、それは普通のゆっくりに限った話。このドスになら、人間を含む、大抵の外敵は相手にならなかったし。 多少の危険な場所も、乗り越えていく強靭さがあった。 そしてその場所の下見を存分に終え、普通のゆっくり視点での対処法や生活方法を編み出し。 それを根気よく教育した。教育し、そして多少の手助けはするものの、決して全面的に支援することはなかった。 巣はあくまで自分たちで個別に作らせた。ドスを中心とした一つの巣は、ドスに対する甘えを呼ぶ。 そして自分たちで開拓させることにより、自分たちはこの環境に勝てるという意識を植え付ける。 普通のゆっくりでは無理だろうと思えるようなことだけは手伝ったが、他の事は一切手伝わなかった、指示も出さなかった。 それは普通のゆっくりなら、群れのボスとしての仕事を放棄した怠慢だと思ったかもしれない。 事実そう思ったゆっくりもおり、公然とドスを批判する者もあった。 「ドスはなんでまりさたちをてつだってくれないんだぜ!?みんなでたすけあってこそのむれだぜ!」 だがドスはそんな意見には取り合わず 「不満があるなら出て行っていいよ、ここよりゆっくり出来ると思うところがあるなら」 その言葉に憤慨し、出て行ったゆっくりも少なくない。だがドスは気にしなかった、残ってくれたものがいるのだ。 しかし、中には多くのゆっくりを言葉巧みに扇動し、少しでも大きな群れにして出ていこうとするものもいた。 そういうゆっくりだけは、秘密裏にドスは殺した。 普通のドスは群れのゆっくり、いやすべてのゆっくりの命に対して強い執着と保護心を持つものである。 まれにドゲスという命をなんとも思わないものもいる。 しかしこのドスは、あまりに多くの死に触れたため、すでにこのどちらでもない精神をもっていた。 自分はこの弱きもの達の圧倒的上位にいるのだから、管理せねばならない。 それは、動物の生息地をなるべく自然の状態で保護する研究者や、植物などを植え育て、森などを作る人間のようなそれであった。 管理者。そう、自分は群れのリーダーではない、管理者だ。 群れを崩壊に導きそうな悪い芽は潰す。そこには命を奪う快感も、罪悪感も、後悔も、何もなかった。 慈悲もなく、許容もない。 次に食べられる植物や生物などの教育を終え、ある程度生活環境が整い始めたら、外敵に対する対処を教え始めた。 いや、それは教えなどではなく、訓練であった。 狩りに出向ける個体に、ゆっくりでも協力すれば倒せる外敵に対しての戦闘方法を訓練させた。 チームワークを教え、何度も仮想敵に対する訓練を行う。 そのハードすぎる訓練に、脱落するゆっくりも少なくなかった。 その中で、本当についていけなかったものは訓練をやめさせ、別の仕事につかせることにした。 そういうゆっくりは元来こういう仕事に向いていないものなのだ。なので、子守や安全な地域の植物採取などを行わせる。 中には、ダルイ、ゆっくりできないなどの理由で訓練を放棄するものもいた。 その中で本当に疲れたふりをして訓練を抜けようとするやつは、戻らせて徹底的にしごいた後に、他の狩りゆっくりに命令を下す指揮官の教育を施す。 単純にゆっくりできないから反抗しているものは、大半は軽めの体罰をつけて戻らせた。 中にはそれに対してすら徹底的に反抗するものもおり、そういうものは群れから出てもらった。 ここでの振り分けはこうだった。まず普通に訓練を続けるゆっくり、こいつらは特に問題もない普通の狩りゆっくりになるだろう。 次に騙してサボろうとするゆっくり、こいつらは多少知恵の回る奴らだということで、生き残るためなら存分に知恵をしぼりだすだろう。 次に反抗するゆっくり、体罰を受けて戻るなら、それは自分本位ながらも多少の状況は判断できるということだ、どうにもならない状況なら自分のためにがむしゃらに生き残ろうとするだろう。 そして最後まで反抗したゆっくり、そこまで嫌ならこいつらの性根はそれまでである、頭も回らず自分の嫌なことにただ拒否するだけ。こういうのは危険にあっても状況がわからず、みじめに叫んで死ぬだけだ。 そうしてゆっくりをふるい分け、最終的な訓練卒業として外敵との実戦に移ってもらう。ある数の部隊にわけ、一つずつこれを行った。 この時、ドスは後ろでその光景を眺めていた。 戦闘が始まり、ある部隊は快勝を続けた。ある部隊は窮地におちいる。その中で、自分たちで奮起し、何とか勝利をおさめる部隊もあった。ある部隊は後ろで見ているドスに助けを求めた。 だがドスはどれだけ助けを請われようと、どれだけ惨たらしく群れの仲間が目の前で殺されようと、決して手を出さなかった。 ある部隊はドスが絶対に自分を助けてくれないだろうことに途中で気づき、絶望的ながら辛くも勝利をおさめた。ある部隊は最後までドスに助けを求めながら全滅した。 実戦が終わると、ドスは部隊の成績によって役割を与えた。前線で狩りをする部隊、狩りをしながらその部隊を護衛する部隊、居住区に残り守る部隊。 それはあたかも人間の軍隊のようであった。 中には教育や訓練をドスが任せるゆっくりもいた。いつまでも自分がやるわけにはいかないのだ。 そうして狩りの教育を終え、食糧が潤沢になってきたところで、食糧制度に手をつけた。 本来ゆっくりは冬以外に食べ物をため込むことはない、取ったら取っただけ、食べられるだけ食べる。 そして普通のドスの群れはそういう事態を憂い、食糧を一か所に集め、管理し、食べない分を非常用として保管する。 だが、それが一部のゆっくりの不満や懐疑を招き、結局反発され、群れが崩壊した例も少なくない。 では、どうするか。ドスはこれに大いに悩んだ、何せ食糧管理は反発を招く恐れもあるが、食料供給の安定した維持にこれ以上の手段はない。 そこでドスは食糧管理の仕事をわけることした。 つまり、食糧を集めるゆっくり達、集められた食糧の量を管理するゆっくり達、その食料の量を聞き分配するゆっくり達。 これによって相互をある種の緊張状態にし、互いに監視させ、一部の独走を阻止しようとしたのだ。 すなわち、食糧調達部隊は、その食料を献上しなければ、食糧管理部隊にすぐさま疑われる。 次に食糧管理部隊は、その食料を正確に管理しなければ、分配部隊に疑われる。 そして分配部隊は、それを正確に分配しなければ、たちまち分配される皆から疑われる。 多少の歪みは出るかもしれないが、致命的な崩壊には繋がりにくいとして、ドスはこの方法を選んだ。 そして、管理、分配の仕事はなるべく頭の良く、公平性があって信頼されているゆっくりでなければならない。 故にこの仕事につくゆっくりを、ドスは皆の推薦による選出と投票で選ぶことにし、もし選ばれたゆっくりに不満があるならば、一定数の投票で辞めさせられることにした。 そしてさらに、一定のサイクルで浄化するために、ある期限ごとに管理分配の仕事につくゆっくりを全員一旦やめさせ、もう一度選びなおす制度も導入した。 それはゆっくりによって形成された、未熟な政治制度のようなものであった。 ドスはゆっくりと色んな制度を導入し、根気よく教え込んだ。 そしてドスの手を借りずにそれが運営されていくようになると、後は全てを任せて手を引いた。 群れの運営がスムーズになり始めてから、遠くの地からドスが直接頼み込み、ゆうかりんを連れてきて農耕制度を作った。 さらに月日が流れ、世代交代にさしかかる頃には、教育制度を狩りの教育や、管理分配の教育、農耕の教育などにわけ、色んな仕事を選べるようにした。 すでに自分の手をほぼ離れて歩いて行く群れをゆっくり眺めながら、ドスは満足していた。 ようやく、自分の理想郷を作ることが出来た、と。ゆっくりがゆっくり暮らしていける理想郷を……。 そこはまさにゆっくり郷とも呼べるものであった。 だが最後に一つだけ、ドスは群れの中で自分だけが行う仕事を持っていた。 すなわち、罪を犯したゆっくりに対する、裁きと罰の執行を……。 夜の下を行くドスが、ある巣の前で止まった。 目的地だ。 その巣の中から、悲鳴のような声と耳が腐るような嬌声が聞こえてきている。 ドスがため息をつく、が、それには何の感情もこめられていなかった。 そしてゆっくりと、気づかれないように中を覗き込んだ。 中には一匹のゆっくりまりさとゆっくりアリス、そしてゆっくりれいむの親子がいた。 だがれいむ親子の様子はおかしい、親と比較的大きいれいむは動けないように痛めつけられ。 まだ交尾に耐えられないと思われる小さなれいむは、アリスによる一方的な性的暴行を受けていた。 「いやあああああああやめじぇええええええいじゃいよおおおお!!!」 「はぁっ!はぁっ!いやぁぁぁぁんかわいいいぃぃやっぱり犯すならちっちゃいゆっくりだわぁぁぁ!!」 親や他のれいむは涙を流しながら「やめてぇ…」「こどもだけはたすけて…」などと弱々しい声で呻いている。 「ゆっへへへ、やっぱりアリスのこうびをつまみにたべるのはさいこうだぜ!!」 そしてまりさはその隙に巣にあった食料をむーしゃむーしゃと食べていた。 押し込み強盗である。 実はこの二匹、最近この郷では有名な犯罪ゆっくりであり、すでに二件の被害報告が届けられている。 どの一家も無残に惨殺され、巣を荒らされていた。 さっき言ったように、ドスはゆっくりに対する裁きを行ってはいたが、それは普通のゆっくりには手に負えないと思われるものだけであった。 このドスの郷には、警察のような役割をもつゆっくりも、裁判もちゃんと存在する。 だがそれでは立ち行かないものがある……。法の手をすり抜け、悪事を続けるゆっくりは後を絶たなかった。 そんなゆっくりを、ドスは心底憎んだ。自分の作ったこの郷を、荒らすものだけは絶対に許さなかった。 ギリギリまで事件解決を見守っていたが、一向にゆっくり郷の警察ゆっくりでは犯人が捕まりそうな様子はない。 長く生きた知恵か、この二匹が次にどこで犯行をするかを予測したドスは、自分だけで制裁を加えるために動いた。 ドスは中の様子を確認した後、そこに向かって「出て来い」とだけ、ただ一言だけ言った。 それだけで十分だった。 色の変わらない体表が本当に青くなるんじゃないかというような顔をして出てきた二匹は、 ドスにすがりつき、必死に言い訳を始め、媚びへつらった。 「ゆるしてほしいんだぜ!まりさたちのいえにはたべものがたりなかったんだぜ!」 「そうなのよ!ついでにすっきりできるゆっくりもたりなかったわ!」 「ゆっ!これはきっとかんりふやぶんぱいふのやつらがわるいんだぜ!」 「そうよ!そうよ!それにどすといえどもむれのゆっくりをころしたりはしないわよね?」 「そうだぜまりさたちはなかまのはずだぜ!ゆるすべきなんだぜ!」 それは聴くに堪えない理屈だったが、ドスはしゃべり終えるまでじっと押し黙ったままであった。 そして何の反応も返さないドスに二人が不思議がっていると、ドスがようやく口を開いた。 「死ね」 そのまま開いた口から溢れる光が、二匹の見た最後の光景だった。 その二匹だけを焼き尽くすために威力を調節したドスパークの照射が終わると、ドスは巣の中に話しかけた。 「大丈夫、れいむ?動ける?」 「ゆぅ…なんとかうごけるよ…」 弱々しいながらも返事が返ってきて、しばらくしてから親れいむの三匹の子供がよろよろと這い出てきた。 「今から病院の方に行って、治療を受けるといいよ。まだ開けとくように言っておいたし、警察もそこに待機させてあるから、事情を説明して」 ドスがそう言うと、口の中に弱った子供を入れているのか、親れいむ達はうなずいてずりずりと這って行った。 れいむ達が行ってから、ドスは大きくため息をついた。 あきれしか出てこない。悪事を犯して、悪びれもせず許しを乞うあの二人。 驚くことにあれが普通のゆっくりなのだ。 わかっている、この郷のゆっくりは、もはや普通ではない。 人間のまねごとのようなものだが、決まり事を順守して生活を営むなど、昔では考えられなかった。 いや、今でも普通のゆっくりには考えられないだろう……。 何で自分たちはこうなんだ。なぜゆっくりは……。 知らず、月を眺める。 最近月を眺めていると、なんだか体の底から力が湧いてくるのだ。 これを活力にして、明日からも頑張ろう。 そう思っていた矢先である。 「はぁい」 それは、何もない空間を割いて、ぬるりと現れた。 妖しく光る髪と、鮮やかな紫の衣装艶めかしく。 「こんばんわ」 絡みつくような声を発し、出てきた裂け目に腰かけていた。 ドスは一瞬で敵だと判断した、それも自分でしか対応できないような。 「あんた誰だ?」 警戒しか含まない問いに、女は目をにこやかに細めると、 「やだ怖い」 口も吊り上げ、 「怖いから」 細めた目を開いて、 「私も怖くなっちゃおうかしら」 その場の何もかもが一変する。 肌を刺した空気で、一瞬で支配された場の雰囲気で、勝てない相手だとわかった。 ドスはため息をついた。このような相手がいつか来ることは、前々から何となくわかっていた。 自分が作った郷は、異常だ。考えの回るこのドスの目は、他の視点から自分達を見ることもできた。 こんなものは、人間からしたら恐怖でしかない。 わかっていた、でもやらずにはおれなかった。なぜ人間に許されることが、ゆっくりには許されないのか。 だから、それでも。 「ここを……潰しにきた?」 ほぼ諦観と、疑問を少しだけ含ませて問う。 人間の上位の存在、人を守るもの、調停者。この郷に対する自分のようなものが人間にも存在すること、それは容易に想像できる。 それが目の前のこの女なのだろう。 女は少しだけ意外そうな顔をすると、すぐに首を横にふった。 「まさか」 そして片手に持った扇子で口を隠し、 「でも、予想以上。そんな考えもできるのね」 そこから出る感情を見せないように呟いた。 「なら何を?」 今度は疑問だけで問うと、 「話をしに」 そう言って、今度は優しく微笑んだ。少し、安心できる笑顔だった。 女は隙間から地面に降り立つと、ドスと向かい合うように座り込む。 「そうね、じゃあまず最初、あなたはゆっくりって何だと思う?」 ようやく話し合いの場が整って、女は最初にそう問うた。 「……」 ドスは難しいと感じた。自分の存在は何だと問われているのだ、何と答えるか……。 「まぁ、難しいわよね。逆の立場なら私も言葉を濁す……一般的な定義を私が言いますわ」 女は返答を待たずつらつらと、 「そうね、饅頭の体を持ち、人語を操り、畑や民家を荒らす頭の悪い汚い野生生物……これが一般的なゆっくり」 挑発するようなその物言いだが、ドスは何も言い返さなかった。 「あら、怒らないのね」 「大方その通りではあるよ」 そう、と女は呟き、 「でも、それは悪いことではないわ。むしろ野生生物の本懐。これより傲慢で、危険で、自分本位な生き物はたくさんいるわ。人間だってそう」 そして、 「普通のゆっくりなら、先の発言には醜く憤慨すべき。それがゆっくりの在り方」 ドスは驚いて女を見つめた。この女は人間に嫌われるゆっくりの性質を何と言った? 「そう在るべきと言いました。多少の程度はあれど、ゆっくりがゆっくりらしく生きること、それこそがゆっくりの在るべき理由」 謳うように続ける、 「憎まれることも、慈しまれることも、虐められることも、世話されることも、全てがこの世界におけるゆっくりの在り方」 理解できない、いや、理解したくない。この女が真顔で今述べていること、それは。 「じゃあ、いつもどこかで繰り返されている、ゆっくりの悲劇……その全てが」 「そう、ゆっくりの生きる理由」 そのためにゆっくりは生きている。 「人間の……ために……」 女はふう、と息をつくと、 「ゆっくりの理由……ここまではいいかしら?」 衝撃から、ドスはまだ立ち直れなかった。 自分たちは言うなれば、人間のおもちゃとして生まれてきたのだ。それが自分たちの本来の在り方なのだと。 「あなた達はおよそ自然環境のどの役割も担っていないのですもの、そうとしか言えないわ……まぁ、これ以上ゆっくりについて議論する気はございません」 女はまだ話を続ける、 「そして次、次はあなた。あなたは果たして……」 あなたは、ゆっくり? 「!?」 問われた。自分はゆっくりか?当然だ、でなければ自分はなんなんだ。 「当たり前だ!」 声が荒れる。 「……あなた、自分を何て呼ぶ?」 女は少し息をついて、 「私……」 「その呼び方はいつから?なぜ?」 「いつからかは覚えていない。何故かは……この方が、らしいと思った」 「普通のゆっくりは、絶対に自分をそんな呼び方はしない」 心にザクリと矢が撃たれた、 「普通のゆっくりは、そんな言葉づかいもしない」 二発目。 「あなた、ゆっくり出来てる?」 「出来てるよ。毎日、郷の管理で、みんなの生活を見守るのが私のゆっくりだ」 「それはゆっくりじゃないわね」 「違う!それが……!」 「他人のための行為はゆっくりではない、ゆっくりの価値観に照らし合わせるならね」 三発目。 「御希望なら、この他にも理由を計上してあげましょうか?子供でも指摘できるものがまだまだあるわ」 荒々しく首を振った。三発。たった三発で、ドスの脳は理解した。 「……私を否定して、何が楽しいの?」 問いは、悲しみと怒り。 「……そうねぇ。あなたはゆっくりの在り方を外れている、ここまではいい?じゃあ次は、人間とゆっくり以外のもう一つの種族の話」 答えず、女は話を進める。 「妖怪の話」 「あなたは妖怪を知ってる?」 「……とても強い生き物。ゆっくりよりも、人間よりも」 投げやり気味にドスは答えた。 「正解。じゃあ、妖怪の種類。そこまではあなたも知らないわよね」 「……?」 女は師が生徒に教えを説くように話し始めた。 「まず、私は妖怪。わかるわね?」 「へぇ……」 ここに来て初めて女の正体が明かされたが、別段驚かなかった。 「私は同族もない、どうやって生まれたかも秘密のワンオフ妖怪よ。こういうのはそれほど数もいないの、さびしいわ」 女は泣き真似の仕草をしたが、ドスは冷やかな視線でそれを見ていた。 「いやん、ツッコミが欲しかったのに……まぁ、気を取り直して次」 女は小芝居をやめると話を再開する。 「次はメジャーな種族に属する妖怪。鬼、天狗、河童、吸血鬼……こういうのは結構な同族がいて、蛮行が広く知られているからカテゴライズされている」 「名前だけは何となく聞いたことあるよ。湖の館……妖怪の山……」 「大正解。ゆっくりにまで知れ渡っているなんて、中々……いや、あなただけでしょうねきっと」 「?」 「なんでもないわ、続けましょ」 女はコホンと小さな咳をすると、 「次は妖獣、これは強大な力を持った獣が、それ故にその生き物の枠を離れて妖怪になってしまったもの」 「動物が?」 「私の式達もこれね、竹林の兎達もそう。これが幻想郷には中々多い……自然が残ったままだからかしら」 ここで女は教鞭を振るう笑顔から、真顔に戻った。 「そう、人間を超える力を持って、その生物の寿命を超えた長い時間を生き、ついにはその定義から弾かれる……」 ドスも気づいた。いや、それはかつて、ドスだったもの。 「まるであなたのことね」 「違う……」 否定する声は、聞き取りがたいくらいにか細い。 「あなたはもう普通の人間より遥かに強いわね」 「違う……」 「あなたは今で何年生きた?普通のゆっくりの寿命は平均五年、巨大種なら十年ってとこかしら」 女は辺りを見回し、 「この郷、ここまでするのに少なくとも十年以上はいるわよね」 「違う……」 「定義から外れる、これはさっき散々説明したから言うまでもないわね」 「違う!!」 違う、違う。私は、私は…… 「あなたは、妖怪よ」 「正確にはゆっくりと妖怪の境界線……その上に今のあなたはいるわ」 その言葉に、うつむいていたドスは少しだけ期待をこめて見上げた。 「でも、その境界がゆっくりに傾くことは決してない」 絶望を、女は吐く。 「これからあなたは、ゆっくりと妖怪になっていく……いや、今でも弱い妖怪程度ならいい勝負をするでしょうね」 「……」 妖怪は応えなかった。もう何も応える気もなかった。 「ゆっくりが、この幻想郷に誕生してもう何年経ったのかしら……そろそろだとは思っていたけれど、私が見つけたのはあなたが初めてよ」 女は、満月の空を見上げ、 「永琳に改造されたわけでもなく、自然に生まれ、自然に生きてきたあなた。ここまでの生、私は敬意を表します」 そして、再びその妖怪へ視線を向けると、 「そして、幻想郷はあなたを受け入れます」 「……そう」 妖怪も女を見つめ、ただそれだけを呟いた。 女が軽く扇子を振ると、空間の隙間は再び開いた。ゆったりと浮き上がりその中に下半身を入れる。 「では、ごきげんよう。これからあなたがどんな選択をして、どう生きるのか。少しだけ楽しみにしてますわ」 上半身だけを出してそう言った後、女は隙間に消え、何事もなかったかのように閉じて元に戻った。 後には月を見つめる妖怪だけが残された。 それから、ゆっくりの郷からドスは姿を消した。 ゆっくり達は思った、ドスがついにすべてを自分たちに任せてくれたのだ、と。 ドスが、自分たちで何かが成せるようになると、必ず身を引いたのをゆっくり達は世代が代わっても覚えていた。 その郷の歴史に、偉大なるドスの名が刻まれ。 後にはゆっくりと続いていくだろう、理想郷だけが残された。 あとがきという名の言い訳 今回はゆっくりいじめ作品としては駄作極まりないと思われる本作を読んでいただきありがとうございます。 ゆっくりいじめに憧れていました。色んな作品を読み、深く感銘を受けました。 自分もこんな作品を書いてみたい、彼の憎き饅頭を虐め抜きたい、そう強く願い、ようやく実行に移った次第ではありますが 出来上がったのはこんなものでした。皆さんのような、加虐心に油をドンドコ注ぐゆっくり語や、醜い物言い、くさった饅頭心。 何もかも自分の実力では描けない、難しいものでした。才能のなさが恥ずかしいです。修行の足りなさを実感しました。 まあ自虐はこれまでにして、本編の補足です。 今回のゆっくりの生活制度はまったく人間のそれのパクリです、そして世界はこんなに簡単ではありません。多分。 本当はドスに反発して「ゆ゙っぐり゙でぎな゙い゙い゙い゙い゙!!」と叫ぶゆっくりの描写をふんだんに取り入れてみたかったのですが、どうにも力不足でした。 後半の会話にいたっては雰囲気がまったく前半と違ってしまい申し訳ないです。これではただの東方SSです。本当に(ry それにしても、ドスはこれほどまでにならなくても、人間を殺せる時点で十分妖怪だと僕は思いました。 最後に、こんな作品とやたら長い言い訳を最後まで読んでくれた方にもう一度お礼を。また修行して今度は上手く書けるように目指したいです。それでは。 このSSに感想を付ける